今回は、「イヌの社会化期」について、より緻密に理解できるよう、石川先生に解説をお願いしたいと思います。
山崎: 確かに、我々ドッグトレーナーを含め、広く一般的に認識されている『イヌの社会化期』の解釈とすれば、
「生後3~4ヵ月頃は、いろんな経験を受け入れることができる時期」といったことになるかと思われますが、
違うのでしょうか?
石川: 本来、『社会化期』とは「物や人に対する社会的な行動を学ぶ時期」なのですが、残念なことに、おっしゃるような
「この時期に出会ったものは将来受け入れられるものとして学習される時期」と誤解されていることが
多いように思います。
『イヌの社会化期』は一般に21--84日齢ぐらいを指すのですが、人に対する“親和性”は5週齢ぐらいがピークで、
入れ替わるように新しい人や物に対する“恐怖反応”が育ってきます(Scott.J(1965))。なので、例としてあげると、
将来「掃除機」を怖がったりしないように、子イヌの時期に掃除機を見せておくように指導したりしますが、
これは大きな誤解です。
「掃除機」のように刺激の強いもの(忌避すべきものと学習されやすいもの)に対する親和性を身につけさせるなら、
恐怖反応が発達する前(5-6週齢)か、恐怖反応のピークが過ぎてある程度落ち着いた頃
(恐怖反応のピークは12--14週齢なので、おそらく20週齢以降)にすべきです。
刺激が強くないものであれば、あまり気にしなくて良いかもしれませんが、
刺激が強いものは社会化期の中でも時期を選んで対面させるべきです。
山崎: なるほど。なんでもかんでも、遭遇させればいいということではないということですね?
石川: そうですね。Woolpyの文献では、「『社会化』には“恐怖心(fear)”が大きな役目を果たしており、
トランキライザーで“恐怖心”さえ押さえてしまえば、ある程度年齢が高いオオカミでも社会化が可能である」
という結論に至っており、興味深いです。
つまり、『社会化期』は「他個体との親和関係を形成する期間」ではなくて、「他個体との親和関係形成を阻害する
“恐怖心” が低く抑えられている期間」であるということです。
だからこそ、若齢期で「人(人類)は恐怖の対象ではない」と“概念学習”さえすれば、高齢になってから新しい人
(個人)に出会っても「人(人類)に対する恐怖心は起こらず、それなりに人(個人)と親和関係を結ぶことができる」
という風に理解する方が正しいものと考えられます。
山崎: わかりました。非常に明快で分りやすい解説をありがとうございました。
【Q&Aコーナーの回答者】
氏名:石川 圭介(いしかわ けいすけ)
専門分野:動物行動管理学 博士・学術(麻布大学)
イヌの発達行動学、特殊作業犬の育成研究
現職:独立行政法人 畜産草地研究所(契約研究員)
麻布大学 獣医学研究科(共同研究員)
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